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ぎゅっと両手を拳にして言う彼女。やはりその表情は綺麗だった。
綺麗すぎた。
普段なら他人のことを深く考えることはないし、美しいものの方が好きな私だが。今日はその端正で整いすぎたかんばせに胸がざわつく。
「手、出して」
小首を傾げて、健康的でしなやかな手が差し伸べられる。それに自分の手を重ねて指を絡めると、みどりさんはやはり不思議そうに、しかし好かれそうな微笑を浮かべていた。もう片方の手で、自分の髪をぐるぐると指に巻きつける。
『フローティング』
その一言で、みどりさんの鎖骨に花が咲いた。
私達の髪が、ホワイトブロンドとグリーンが絹を織るように混ざり合う。ゆっくりと足が地面から離れていく。
「わぁっ……!」
暴れそうになった彼女の手をすかさず掴んだ。両手を繋いでいる状態で、私達は夜空に浮かび上がっていた。風はほんの少し。ぐるりと一回転してみれば、上にあるのが星空なのか、てらてらと光を反射する海面なのかわからなくなった。
私は、月だ。海の上に浮かぶ月。ただ空を漂っているだけ。
みどりさんは風か、魚か、鳥か、波か、なんでも。誰かのためにいつも忙しなく動く。
でも、今この場でだけは自由だ。何者にも強制されない、重力にすら縛られない。ただ波や空──好きなものに浮遊していられる。
私達は浮遊している。何か引っかかるものを求めて。浮遊しているだけでは、何者にもなれない。それでいい。なりたくない何かにさせられるくらいなら浮かんでいるだけでいい。
繋いだ手を片方だけ離した。そこからは宇宙遊泳のように、飛ぶ鳥のように、あるいは社交ダンスのように動いた。私が空中を蹴れば、みどりさんは一生懸命にそれを真似する。それだけの時間。
「おしまい」
両足が着くと、すぅっ、と重力が帰ってくる。この世の理が全身を重く満たす。
みどりさんが疲れていないか気になったが、やや興奮気味に目を輝かせていた。
──
自由になりたい人と使命感に駆られる人が、一晩遊んだだけの話。
途中で「常に他人の足音を聞いているような警戒心」という描写がありましたが、これは海月の勘違いです。人外の聴力だったのでしょう。
なんで書いたかというと、自由になりたい海月が使命感で生きているみどりの姿に苛立ちを覚えたらエモいなと思ったからです。だから自由の味を覚えさせようとした夜。
ワナビな"ボク"ら ※ギャグ(雪曇、五王、こさめ、異獨、竜胆)→←浮遊(海月、森崎)
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作者名:バニー芳一 | 作成日時:2024年4月16日 19時