短編集【d】【npl】 (ページ22)

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ほんとは生きるのとても辛い/sha※ ページ22

｢本当は生きるの、とても辛いの｣

そうやって言ったアイツは、俺の目の前で飛び降りた。

おれとAは、仲が良かった、と思う。

SNSアプリは常に繋がっていた。

毎日のようにメールも電話もした。

俺たち2人は常に繋がっていた。
なのに、俺はAの涙も、悩みも見抜けなかった。

いつも通り連絡なく、一人暮らしのAの家に遊びに行くと、Aの姿が部屋になかった。

出かけてるのかと思えばベランダに人影があって、外に出ればAがこっちを見ていた。

｢珍しいな、ここおるなんて｣

違和感に気づいた時には遅かった。

Aの身体はベランダの柵の外にあった。

瞬間、俺の目に映る景色は、4階から見える風景だけになっていた。

アパートのベランダから、泣きそうになりながら飛び降りたAの、

｢本当は、生きるのとても辛いの｣

潤んだ瞳で笑いながら、最期にそう言っていた言葉を思い浮かべて、俺は泣いた。

棺の中で、眠っているAの前から動かない俺の肩に、手が置かれる。

振り返るとそこには友人がふたりいた。

俺には理解できない私服の、心無いやつが言った。

｢コイツももっと人に優しく出来たら良かったのにな｣

クズで終わっている、浮気男が言った。

｢この子は人とはどこか違うんちゃう？｣

友人の言葉とはいえ、心に刺さる。

お前らに、何がわかんねん。

Aのことなんて、何も、分からへんやん。

Aは、誰よりも優しいやつやった。
ちょっと変わったとこはあったけど、俺といつも一緒にいてくれた、心の広いヤツやった。

俺の涙は、止まることは無かった。