短編集【d】【npl】 (ページ5)

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汚れた手/ci ページ5

ぱたり

どちらのものか分からない液体で、白いシーツにシミを作る。

それをシーツのシワで隠すようにして見ないふりをする。

Aとこうして体を重ねることが、今の俺の1番の幸せ。

ベッドの中で幸せを噛み締めていれば、Aが俺に体を寄せた。

｢しょう、くん…｣

先に眠ってしまったAが、もごもごと寝言で、誰かの名前を言う。

確実に、俺の名前では無い、名前を。

それをシーツの擦れる音で隠して聞かなかった振りをした。

…Aと俺は、付き合っているわけじゃない。

でも、俺はAが好き。

Aの中での1番は、俺じゃない。

俺の名前、が、最初に出てこないって、そういうことやんな…。

腕の中にいるAの温もりを感じながら、ブンブンと頭を振り、モヤモヤとした感情を消す。

Aが、誰を好きでも俺には関係ない。

だって、ただ体を重ねるだけの関係なんやから。

俺が動いたせいか、Aがうっすらと目を開けて起きる。

｢ん…チーノ…どしたの、？｣

｢なんでもないよ。好きやで、A｣

｢私も、いちばん好きだよ｣

ちゅ、と軽いリップ音を立ててキスをし、Aはまた眠りについた。

そんな、1番なんて、
優しいようで、優しくない嘘はいらんねん。

ゆっくりと俺も目を閉じ、眠りに入る。

ほのかな温もりをシーツで溶かし合って、

このまま、2人でどこまでも落ちていけたらいいのにな。