〃 ページ10
彼に恋をし始めて、もう何回宅配をしてもらったのだろう。
未だに彼の名前すら分からない。
次こそ彼の名前くらいは聞こうと、心を決めてもう何回宅配をしてもらったのだろう。
未だに彼の顔しか分からない。
次こそ彼の連絡先を聞こうと、何度目かとも分からない決意を固めた瞬間にピンポンと、チャイムが鳴った。
いつものようにドアホンを覗けば、金髪の彼の姿がいつもの宅配便の名前を言っている。
高鳴る胸を押さえながら、ドアノブに手を伸ばす。
｢ちわっす！W宅急便です！｣
キラキラと、後光が刺すような輝かしい笑顔が眩しい。
何故だろう。いつもと変わらないはずなのに緊張が身体中を走る。
震えそうな手でサインをした受領書を渡そうとするが、彼がそれを、受け取らない。
いつもなら、そのまま受け取って、あの輝かしい笑顔を私に向けてくれるというのに。
どうしたのかと伺うように顔を覗けば、あ、あの！と声をかけられる。
｢…あ、の…！連絡先…よかったら、教えてもらえませんか…？｣
段々と尻つぼみになるその言葉を、何度も自分の中で反芻して理解させる。
…よくある罰ゲームかもしれない、なんて一瞬でも思った自分を殴りたくなった。
帽子で顔を隠しているが、ちらりと覗いている真っ赤な耳を見て、彼の心からの言葉なんだろうと察する。
大慌てで携帯を持ってきて、メッセンジャーアプリの連絡先を開く。
ピコピコ、なんて軽い音を鳴らして、私の気持ちとは正反対に一瞬で彼との連絡先交換は終わった。
｢コネシマ、さん｣
｢おん！知り合いによおそうやって呼ばれとるから好きに呼んでや！｣
お、俺、次の配達の時間なんで！と足早に私の目の前から消えた彼…コネシマさん。
連絡先の交換ができた。
彼の名前も知れた。
胸が浮かぶかのような幸せな気持ちに、叫び出しそうになるのを抑える。
暫くしてから、コネシマさんからアプリに連絡が届いた。
｢また明日、俺配達行くんで、よろしくお願いします。Aさん｣
そんな簡素な文章にすら、私の心は湧き踊った。
箱にしまって、あけないで
｢やっと連絡先交換できた…｣
｢ま、まず何言ったらええんやろか…｣
｢普通によろしくか…？こんな顔文字入れたらキモイやろ…｣
｢…あﾞー、いきなり名前打ったのキモかったかな｣
｢でも名前も、何なら住所も知っとるし、打たん方が変やんな、うん｣
｢何話ししたらええか分からんねんけど｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 21人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ビリヤニ | 作成日時：2024年1月18日 19時
