【WT】まっしろなせかい【短編集】 (ページ5)

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そう言ってケラケラと笑うきりやんに、今すぐにでも持っている竹箒を脳天にぶちかましてやりたい。
怒りか寒さかもう何かわからないけど、震える右手が未だ竹箒を持てているということはきっとこの震えは寒さなんだろう。

目尻の涙を拭い、きりやんが言う。

「なに、バイト？」
『そーデス』

つーんとそっぽを向いてやれば、きりやんは私の顔を覗き込み、憎たらしい表情を浮かべる。

「あれ、こっちはお客様ですけど？そんな態度取ったら怒られるんじゃね？」
『はいはいさっさと御守りでも買って帰りやがれくださいオキャクサマ！！』

べし、と授与所の方を指し示し、思いっきり彼の方を睨みつければ、きりやんがまた大笑いした。なお、ここまでの会話は小声で行われているということを、私の巫女人生を守るために伝えておく。

『ねぇ、ほ、他の人には言わないでよ？恥ずかしいんだから…』
「ふ〜ん、ど〜しよっかな〜？」
『き、キサマ！脅す気か！？』

とにかくこれ以上噂を広められては、たとえ今年1回切りのバイトとは言え一日で辞めることになる。私は巫女服を着てから即自撮りをインスタにあげていた友人のように周りに見せたいわけではないのだ。

しかし、少し渋るような態度のきりやんに思わず冷や汗が流れる。そんな私の反応を見てどうやらご満悦になったらしいきりやんはふは、と吹き出した。

「嘘に決まってるだろ〜？別に言いふらしたりとかしないから」
『い〜や！信用しないね！』
「なんでだよっ！」

ぎゃんぎゃんと、でも場所に配慮してか、いつもより落ち着いた声で噛み付いてくるきりやん。

……もう、冗談に決まってるでしょばーか。

『ほらほら、さっさとお守り買って帰ってろこの天パ眼鏡野郎』
「なんかいつにも増して辛辣じゃね！？はいはい、お仕事の邪魔してすいませんねー」

きりやんはもふもふのあったかそうなマフラーを直しながら呆れたような、でもどこか楽しそうな顔でそう言うと、コートのポケットに手を突っ込んだ。

「じゃ、また年明けな、A」
『ん、じゃあねー』

手を振る代わりに肩を竦めて、きりやんは背を向ける。そのまま帰るかと思ったら、すぐにぴたりと足を止めて振り向いた。

「あ、そうだ」
『な、なに』

眼鏡の奥の黄色い瞳がするりと細くなる。
そして愉快そうに、でもどこか嬉しそうに、彼の唇が言葉を紡ぐ。

「やっぱり似合ってんな、巫女服」

呆然とする私の耳に、響いたシャッター音は届かなかった。